深香陶窯について
五十吉のものづくり
置物を中心とした素地造りが
窯の源流である深香陶窯では、
現在も自らの手で「形」を作り出します。
初代磯吉が大切にしていた
「粘土で遊ぶ」というDNAが、
粘土の表面を肉付けしたり、
彫り込むことで表情を豊かにしたりという
自由な発想の深香陶窯の
カタチ造りに繋がっています。
造形
~窯の源流~
窯には代々伝わる「型」に加え、彫刻技術を持つ浅蔵宏昭が新たな原型も作ります。
作る品物に合わせて、ろくろ成形・鋳込み成形・型打ち成形と、多様な技法を使い分けて形を生み出します。
ろくろ成形は、微妙な手加減でカタチの雰囲気が違ってくる繊細なものであり、粘土に作り手の気持ちがダイレクトに伝わります。
成形した後に乾燥・焼成と段階的に収縮するため、焼成後のサイズを見越して形を作って行きます。
形状が複雑な置物は、全体形状を多数のパーツに分割し、それぞれの型を作ります。
粘土でパーツ型(それぞれの型)から形を起こし、乾燥の頃合いをみて全てのパーツを組み合わせて1つの置物をつくります。
パーツを組み合わせて形を作るので、繋ぎ目の部分など細部まで気を使い組み上げないと焼成時に割れの原因となります。
花坂陶石を主原料とした九谷の土はとても繊細で、特に焼成時の変形(収縮)が大きく、気候による乾燥のスピードや度合いが違う為、夏の急乾燥、冬は粘土の水分が凍らないように養生しながらの作業となります。
人の手でしか生み出すことの出来ない温かみある形は、使う人を思いながら日々制作されています。
絵付
~絵をつくる~
初代磯吉は「これからは素地だけでなく、絵付まで施した完成品の九谷焼を供給するべき」と考え、二代五十吉に古九谷・吉田屋といった伝統的な絵付けの技法を初代徳田八十吉に学ばせ、その技法を持ち帰ったところから深香陶窯の絵付けが始まります。
伝統的な九谷の絵付技法を研鑽しながら、二代五十吉は公募展への出品作品制作に合わせて絵付や色彩のオリジナリティを追求していきます。
そして、「強さ」と「奥行き」を加えることが出来る表現方法として、作品自体に文様を立体的に施す技法を生み出します。
立体的になった文様に色彩を加えることでさらに存在感が増し、他にない表現技法として深香陶窯の大きな特徴となります。
その流れを引き継いだ三代五十吉は、北出塔次郎に師事し学ぶ中で大きく影響を受けます。
造形・加飾をより大胆にアレンジ表現する事に果敢に取り組み、自分ならではの作風を追求していきます。
初代からの流れは、浅蔵一華と浅蔵宏昭の二人の九谷焼作家に受け継がれています。
現代の生活空間にも取り入れやすい意匠を柔軟に組み入れ、伝統的な古九谷や吉田屋の絵柄・色彩を用いつつも、「今」の深香陶窯の美を日々追い求めています。
古来の型にとらわれず、自由な心で創作する深香陶窯の絵付は、器形と一体となり作品へと昇華して行きます。
唯一の「黄」色彩
九谷焼は伝統的に「九谷五彩」といわれる、緑・紫・黄・紺青・赤の五色を用いて彩色されます。
彩磁彩と呼ばれる五十吉の「黄」は唯一無二の色彩であり、
その重厚で落ち着いた佇まいは深みがあり、作品に品格と豊かな表情を生み出します。
この黄色は、二代五十吉が独自の調合で結晶のような模様が浮かび上がる絵具を開発し、現在まで受け継いできています。その調合の比率は一子相伝であり、専用の調合部屋には受け継いだ一人しか入れなく、門外不出となっています。
調合分量を測る際に重さを計る秤(はかり)は、開発当初から使用している分銅を用いたアナログ式であり、デジタルでは感じ取れない湿度や気候を感じ取り、微妙な調合を行います。
絵具は焼成の際に気候などの諸条件により思うように発色しない事もあるほど繊細です。
色調の違う絵具を何度か塗り重ね、焼成を繰り返す事で色彩の深みが増します。ガラス質の絵具を筆で塗るため、塗る人の絵具の水分量や硬さや厚み、すなわち経験による感覚が大事になります。
焼成の際、窯内の温度による溶け具合や絵具の混ざり具合などの環境が毎回異なるので、仕上がりの色彩は窯に委ねることになります。
自然との調和が反映される五十吉の「黄」が生き物であることを感じさせます。
絵具の調合の研究は終わることなく、さらなる美を追求しています。